運が悪かったのか？…それとも…。

　僕は接客商売の経験は無いのだけれど、いろいろと厳しいのだろうな、などと思う。

　今の僕はかなり短めの髪型なので、３～４週間に一回程度の割合で床屋（理容室）さんに行く。近年は価格破壊なのか価格の適正化なのかはわからないけれど、カットのみなら１０００円だったり、普通にシャンプーや髭剃りまでやってくれて１５００円だったりと、安い店が増えた。一方で未だに組合価格（３６００円）のところもあるけれど。
　僕はどうも髭剃りが面倒なので、多少のお金を払ってでも髭剃りまでやってくれる店に行っている。だけれどほとんど刈上げのみの頭なのに３６００円は高いという意識もあり、結果して、全部込みで１７００円でやっているある店に行くことが多い。そこは店主が中年の女性で理容師さんではなく、他に何名かの雇われ理容師さん（たいていオジサン）が居るという構成の店だ。
　その店は価格も安い割にはベテランの理容師さんが居るので、そういう点では良い印象なのだけれど、おそらく雇われ理容師さんばかりなので、メンバーが固定していない。そういう欠点もある。

　今日の夕方に行ったときも、今まで見たことが無い女性の理容師さんが居た。たまたま混んでいたり、普通の理容用椅子ではなく臨時の場所に座らされたり等、様々な条件が重なった。見たことがない女性理容師の方も若くは見えなかったが明らかに経験が不足している感じだった。その方に刈上げから髭剃りまで一連のことをやってもらったのだが、どうにも頼りなく不安にさせられた。良く言えば丁寧、悪く言えば手際が悪く、かなり時間がかかった。また、最後の鏡などによる確認も手間取り、僕ではなく他の男性理容師さんが「いいよいいよ」と言って終わることとなった。さらにお金を払う段になり、いつも１７００円を要求されるはずなのに１８００円を要求された。ちょうどそのとき、店主の方が居なかったこともある。確かに本当は１８００円の店なのだが、僕はほとんど刈上げのみなので、気を利かせて１７００円にしてくれていたのだ。今までは…。
　結果、僕の心には、「運悪く経験の浅い理容師さんに当たってしまい、さらに運悪く今までのことを知らない店員さんにいつもよりも割高な金額を要求されてしまった」という感情がどうしても残ってしまった。

　釈然としない気分で店を出ると、雨が降り出していた。そこにばったり傘を差して戻ってきた店主のおばさんが。「傘は大丈夫ですか」と訊いて来たので「大丈夫です」と応える。そのとき、ふとよぎるものがあり、「今日の方は初めての方ですか」と訊いてしまった。頷く店主。「何かあったの」と訊かれた時も、やんわりと「ちょっと…」と言う。すると「今度から当てないようにするから」と言われた。「大丈夫です」と繰り返してその場を去ったけれど…。その後どうなってしまっただろうか…。上手くこちらも伝えられなかったので気になった。その女性理容師さんがクビになったりしていないと良いのだが…。

　帰り道、頭を整理するうちに、僕の不満が女性理容師さんにあるわけではないことがわかった。その周りからも含めた「店としての支援」に対して不満が残ったのだ。周りの理容師さんのフォローがもっと欲しかったのだ。

　どの仕事にも、どの業種にも、初心者や経験不足の者は居る。それは仕方が無いこと。大切なのは組織としてのフォローなんだ。…もっとも、こうした言い分は比較的規模が大きな会社組織だから言える事であり、床屋のような個人経営の小さな組織…しかも価格の安さを売りにしているような店…に求めてよいものかどうかは、正直わからないが…。
　あくまでも客側に立った観点ならば、「運が悪かった」と思わせるようではダメなんだろう…。けれど、こうしたことを、先ほどの店主に対しては理論的に言うことはできなかった。悔やまれるところだ。

　…。

　…こうしたことに思い悩んでしまうことも、運が悪かったんだろうか？
　…それとも…？